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WAKAKO FUJIWARA / SHINSEI 

​藤原芽子 / 真正ボクシングジム

OPBF Female FEATHER Champion

JAPANESE Female FEATHER Champion

 w6/ l/2 d/2

vol.1

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「離婚したことがきっかけです。離婚して、とにかく自分に自信がなくて。何かをやって自信をつけたかったんです。」

 その手段として彼女はプロボクサーになることを選んだ。

 突飛な気もするが、離婚経験者の私にはわかる気がする。

 3人の子供を連れシングルマザーになった。ただならぬ決意だともちろん思う。でも離婚後に心が揺れて、不安な夜を幾度となく過ごすなら、日々限界に生きてクタクタになって意識を失うように眠った方がいい。

 「ボクシングをしてる間はとにかく無になれました。」

 自分の決断を肯定でも否定でもなく、唯、記す。プロボクサーという新しい自分になって離婚をも凌駕したかったのかもしれない。

 能書きはここまでだ。全ては抗えない運命のうねりに引き寄せられたのではないだろうか。

 でなきゃ、こんなことには挑めない。

 振り返るととてつもない山を登っていた。でもそれは、小さな一歩を地道に確実に重ね続けた結果だ。​間違いなく簡単なことではないはず。

 ただ自信のない自分と戦い続けて登り詰めた景色は、今の彼女にどんな風に見えるのだろうか。

 今年3月、日本女子フェザー級初代チャンピオンを獲得した後、OPBF東洋太平洋女子フェザー級チャンピオンの三好喜美佳に挑戦が控えていた7月、話を聞いた。

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 彼女はフェザー級。体重は55.34kg超 ~

57.15kgまでの選手だ。

 初めて試合を見たとき、そのパンチの重さに驚いた。繰り返し会場中に鈍い音が響き渡る。筋肉から骨まで響く、鈍く重い振動。

 練習はスパーリングとミット打ち、そしてフィジカルトレーニングが休む間も無く集中して行われた。時折ジムの仲間と声を掛け合い、でもほとんど最後の縄跳びまでノンストップで突き進む。

 この短時間の集中した練習の積み重ねで3児の母は日本女子フェザー級初代チャンピオンまでたどり着いた。もちろん、チームメイトや様々な環境に恵まれたことも大きいと彼女は言う。でも誰にでも可能性があるのではないか、ふとそんな気にさせられる。当然ながら誰でもがなれるはずはないのだけれど、少なくとも仕事を持ち、家庭をも持つ彼女に与えられた時間は限られている。その状況でチャンピオンになるなんて。想像すると、彼女からポジティブなイメージを感じずにはいられない。いろんな意味で、ボクシングは面白いな、と改めて思う。

 昨年日本女子初代フェザー級王者決定トーナメントで引き分けた際、このまま引退するか?そんな思いがふとよぎった。その時年齢は36歳。再戦が決まらなければ37歳の誕生日で自動的に引退となる。

 

 子供達と過ごす時間が少ないこと、子供達に生活の負担をかけていることがずっと気がかりだった。でも長男の勇生(としき)君に「ギリギリまでやったら?戦ってる姿、見たいよ。」と言われ、自分のやっていることは間違いではない、と感じたという。こんな風に、家族に応援されながら彼女の強さはどんどん増幅していった。

 

 今年3月の日本女子フェザー級タイトルマッチ。再戦相手はカシミボクシングジム所属、神成麻美。試合前は不安でしかなかったが、試合が終わり、無事勝利を手に入れた今、彼女が感じていることはただ一つだ。

「ホッとしている。」

 これで現役続行が伸びた。それに尽きる。

 勝利の喜びはボクシングをプロとして続けることに直結するのだ。

 日常はとにかくキツイ。とにかく忙しい。

 でも続けられるのは、年齢を考えると負けたら最後。だから最後まで頑張る、それしかないから。

 

 ボクシングが好きですか?

 

「そうですね、やればやるほど奥深いというか。めちゃくちゃキツイけど、なんなんでしょうね、この奥深さは。」

 次女の真癒(まゆ)ちゃんにとっても自慢のお母さんだ。だがプロになりたての頃は、子供達の友人は「お母さんがプロボクサー」ということを信じず、嘘つき呼ばわりされたことも。「子供達の間で、お母さんがボクサーなんて、到底信じられなかったんでしょうね、ボクサーが、あまりにも身近じゃなさすぎた(笑)」

 練習が終われば一目散に家に戻り、その後は母となる。家族一斉のLINEで本日の各自のミッションを確認しあい、皆で家事をこなす。彼女がプロボクサーである限り、「チーム芽子」は、今日もフル稼働だ。彼女が見ている景色、見ていたい景色。それはこの愛おしい非日常のような日常、かもしれない。

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